
睡眠の質を上げるための「夜の習慣」とは
2023年8月9日

白濱 龍太郎 氏
日本睡眠学会専門医、医療法人RESM理事長。福井大学医学部 客員准教授。ハーバード大学公衆衛生大学院にて睡眠に関する先端の研究に従事。東京オリンピックでは選手のサポートを行うなど、ビジネスやスポーツ界からの信頼も厚い睡眠のエキスパート。
寝付きが悪いときの理由とは

夜は眠くなる事は先述の通り人間の1日のリズムから考えると当然の事なのに、なぜか寝付きが悪かったり、なかなか眠れない悩みを持つ人は多くいらっしゃいます。
なぜ寝付きが悪いのか、要因は様々です。
▶︎身体的な理由
就寝時に病気の症状が出現し寝付きが悪くなる事です。
例えば、ハウスダストやマットレスの環境等、様々な要因が考えられますが呼吸器疾患による咳や発作等で理想的な呼吸ができない事。また足がむずむずする「むずむず脚症候群」や高血圧による胸の苦しさも存在しています。
▶︎精神的な理由
ストレスは緊張状態を引き起こし、交感神経を優位にさせてしまいます。それにより興奮状態になり寝付きが悪くなります。
▶︎生理的な理由
体内時計(サーカディアンリズム ※「睡眠の質を上げるための朝の習慣」参照下さい)が乱れている人は寝付きが悪くなります。
▶︎環境的な理由
室温や音、光、匂いなどの寝室環境は入眠へ大きな影響を与えます。マットレスや枕が自分に合っていない場合も睡眠の質に大きな影響を与えると考えられます。
夜の習慣①寝る時間から逆算して自分なりの入眠儀式をつくる

睡眠の質を上げるために寝る時間までの間にどんな過ごし方をすることが良いのでしょうか。
1つは眠り始める1時間半~2時間ほど前に入浴をして「深部体温」を上げておくことが有効です。人は深部体温が下がり始めることでスムーズな入眠ができるのですが、その深部体温を事前に上昇させておき、スムーズな入眠をコントロールするのです。
また入浴をひとつの軸にして、毎日眠り始めるまでの自分なりのルーティン(習慣)を作ることも大事なことだと思います。
例えばですが、心が落ち着きリラックスできる音楽を流し始める、入眠に効果のあるラベンダー等のアロマを焚いて香りを楽しむ、部屋を薄暗くするなど、
「これから寝るんだ」という自分なりの“寝る前行動”を毎日行うことで、人は眠りやすくなります。
ちなみに交感神経を活性化させてしまうスマホの利用や寝る直前の飲酒なのはいけません。
夜の習慣②運動をするなら20時までに終わらせる

睡眠の質を上げるためには、寝る前に激しい運動やトレーニングをすることは避けて下さい。
心拍数が上がって交感神経が活発になり、入眠の邪魔をして効率的な疲労回復、筋繊維の修復が出来なくなってしまいます。
そして筋肉は運動やトレーニングにより一度筋繊維を破壊し、修復されるときに増強する仕組みになっていますが、そのプロセスにおいて必要な要素のひとつが成長ホルモンです。この成長ホルモンは長時間分泌される特徴があり、同時に入眠時のノンレム睡眠時にも成長ホルモンが分泌されます。
つまり、夕方に筋トレや高強度の運動をすることで成長ホルモンが多く分泌され、睡眠時の成長ホルモン分泌と重なり筋肉が効率的に増強されます。そのためには20時ぐらいまでにトレーニングをやっておくことが推奨されます。
就寝前の運動としては、軽度なストレッチがおすすめです。おススメのストレッチ動画は「睡眠お役立ちコンテンツ」ページの下段にいくつか紹介していますので、ぜひチェックしてみてください。
▶ストレッチ動画はこちら>>
夜の習慣③寝れないときにヒツジを数えることに効果はない

夜の過ごし方、から少し離れてしまいますが眠気を誘う方法として「ヒツジの数を数える」という方法が昔からありますよね。実はこの話は明確な根拠がなく、且つ英語で数えることに意味がある可能性があります。
由来のひとつとして「ヒツジ(Sheep)」と「眠る(Sleep)」の発音が近いことから、英語圏で生まれた言葉遊びが元だと言われてます。一説にはSheepと発音すると腹式呼吸がうながされ、良い呼吸ができることでリラックスし入眠しやすい環境を作るということです。これを日本語にして「ひつじが・・・」と発音したところで同じ効果は期待できません。
入眠に効果がある音は昨今様々な方法で入手可能なのでぜひ探してみてほしいと思いますが、例えば自然界から収録した音源や適度な雑音などが入眠に作用があると言われています。
白濱龍太郎先生によるまとめ
睡眠の質を上げるための夜の過ごし方は様々なNG行動があります。
例えば、刺激の多い食事は避け胃の負担が少ない食事を心がける事や、お酒を飲むなら適量を夕食時が良く、寝酒は避けるべき等、今までのコラムで記載させていただきました。
こういったNG行動をとってしまうことで、睡眠の質を上げる事ができず「貧眠(ひんみん)」と表現してもいいような状態になってしまいます。
そのなかでも睡眠の質を上げるために、一番やってはいけない行動は寝る直前に水分を摂りすぎる事です。
理由はシンプルに尿意によって睡眠を妨げられることに直結するからです。
もちろん、人は睡眠中にコップ1杯~1.5杯の汗をかくといわれているので、水分補給は特に暑くなる夏など睡眠中の熱中症を避ける事にもつながる大事な行動です。なので、寝る前ではなく夕食時に水分をしっかりと摂り、眠る前にトイレに行ってから睡眠することを習慣にするとよいと思います。
睡眠の質を上げる事は睡眠中ではなく、日中から夜にかけてどんな行動をとるかによって決まります。ぜひ朝、昼、夜の自分の行動を見直してみてください。結果睡眠の質が上がり、日中の行動もさらに活動的になるポジティブなサイクルが生まれてくることでしょう。