
「ぐっすり眠る」ための過ごし方とは
2023年6月2日
「ぐっすり眠る」とは人それぞれ捉え方が違うかもしれませんが、一つ言える事として睡眠の質が良いかどうか、朝の目覚めがすっきりして1日の活動を自分の期待するパフォーマンスで過ごせるかどうかがポイントになります。 今回はそんな「ぐっすり眠る」ために日中どんな過ごし方をするとよいかを紹介したいと思います。
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白濱 龍太郎 氏
日本睡眠学会専門医、医療法人RESM理事長。福井大学医学部 客員准教授。ハーバード大学公衆衛生大学院にて睡眠に関する先端の研究に従事。東京オリンピックでは選手のサポートを行うなど、ビジネスやスポーツ界からの信頼も厚い睡眠のエキスパート。
「ぐっすり眠る」ことが出来ない状態と原因とは

そもそも「ぐっすり眠る」事が出来ていない、とはどういう状況でしょうか。その状況と原因について簡単に解説をしたいと思います。
▶︎ 朝すっきりと起きることが出来ていない(熟睡できていない)
良質な睡眠(熟睡できる睡眠)には最初の4時間以内に深く眠ることが重要です。眠りはじめでいかに深い睡眠ができるかがその後の睡眠の質を左右するからです。逆に言うと入眠時の眠りが浅いと全体的に眠りの質が悪いまま朝を迎え、疲労が十分に取れていない状態のため脳が疲労回復を求め続け朝まで深い睡眠をとろうとし、ぐっすり眠れた感のない朝を迎えることになるのです。
▶︎ 睡眠の途中で目が覚めてしまう
睡眠の途中で目が覚めてしまう理由は様々ありますが、1つは就寝前の水分のとりすぎや飲酒があります。アルコール、特にビールには利尿作用があり、いつもよりいっそうトイレが近くなります。また睡眠中にアルコールが分解されることで交感神経が優位となり、眠りが浅く、途中で起きる原因になります。また首回りや気道周辺の筋肉の弛緩を促し、いびきの原因となり、結果目が覚める原因にもなります。
またマットレスも大きな原因となる事があります。例えば体に合わないマットレスや日本の四季に合わないマットレス(例:夏に蒸れて熱を籠らせてしまうマットレス)は快適な睡眠を妨げ、身体に不快感を与えることで無理な寝返りを誘発し、そのタイミングで目が覚めてしまうことが多々あります。
▶︎ 日中にぼーっとしてしまう
十分な時間睡眠をとれているはずなのに仕事中や家事をしている日中帯になぜかぼーっとしてしまう事はだれしもあると思います。これを「プレゼンティーイズム(疾病就業)」と言われており、出勤しても頭や身体のなんらかの不調のせいで本来発揮できるべきパフォーマンスが低下している状態の事を指すといわれています。ちなみに日本はこのプレゼンティーイズムによる日本経済への損失は1380億ドル(約18.3兆円)とアメリカのシンクタンク「ランド研究所」の2016年度の調査で明らかになっています。
参照:RAND Corporation“Lack of Sleep Costing U.S. Economy Up to $411 Billion a Year”
「ぐっすり眠る」ためにしてはいけないNG行動

「ぐっすり眠る」ために我々が意外に日々行っている行動の中にヒントがあります。まずはNG行動と言われる事についてご紹介したいと思います。
▶︎寝る前に水分をとりすぎること
これはみなさんも簡単に想像できることだと思いますが、寝る前の水分の取りすぎはトイレを近くするためNG行動です。夕食時に食事と共にしっかりと水分をとり、寝る前にトイレに行って眠ることが推奨されています。
▶︎寝る直前までのスマホやTVの視聴
ブルーライトは睡眠ホルモンの一つである「メラトニン」の分泌を抑えてしまいます。そして結果として体内時計を狂わせてしまうため、睡眠の質を低下させることにつながります。それを防ぐため睡眠1時間前からスマホやTV視聴を控える事をおススメします。
▶︎寝る直前の歯磨き
まずは、メラトニン分泌は、夜間帯においては、光照射(ブルーライト)の影響を受けるという点です。寝る前に歯を磨く際に、LED/蛍光灯が装着されている可能性が高い洗面台で、きちんと歯が磨けているかの確認をする=光照射元からの距離が近いところで、至近距離からブルーライト照射下の環境は、松果体からのメラトニン分泌を抑制する可能性が高いです。
更に、歯磨き=口腔内ブラッシングにより、三叉神経を介した大脳前頭前野の活性変化が起きている事がわかっており、大脳前頭前野と視床下部等 の線維連絡は一方通行ではなく,双方向に認められ、前頭連合野からのフィードバック信号は,トッ プダウン信号として受け取る側の脳活動を制御していることもわかっています。
歯磨き粉を使用した、ブラッシングに伴い、口腔内の刺激は、三叉神経を介して伝わりますが、三叉神経は、延髄孤束核→大脳皮質体制感覚野へ至るルートと、偏桃体、視床下部へ向かうルートに分かれます。一方、メラトニンの制御に関わる松果体は上頚神経節から交感神経支配を受けますが、神経ペプチドPACAPを含む神経線維によって、三叉神経節のニューロンによる支配も受けることがわかっています。上記の様に、眠前の洗面台等での、光照射下での歯磨き行為は、睡眠の妨げになる可能性があると考えられます。
▶︎洋室にふとんの直敷き
良い睡眠に重要な寝具環境。寝心地の良さは人それぞれですが、ひとつ言える事として、クッション性は睡眠環境を快適にして寝心地を良くすると思います。洋室にふとんを直敷きをするとゴツゴツしすぎて寝心地が悪く、また寝姿勢も悪くなる可能性があります。直敷きをする場合は、オーバーレイマットレス等でクッション性を高めることが良いと考えます。
「ぐっすり眠る」ための日中の過ごし方

夜に「ぐっすり眠る」ために我々が日中帯にできる事、意識するべき事があります。
▶︎朝に太陽の光をしっかりを浴びる
過去のコラムでも記載をしましたが、人は体内時計(サーカディアンリズムと呼ばれています)が存在し、自律神経の安定を促すホルモンの分泌が重要だと言われています。具体的には日中には「セロトニン」という通称“幸せホルモン”が太陽の光を浴びることで生成され、夜にかけて睡眠に重要なホルモン「メラトニン」の原料となっていきます。そして「メラトニン」がしっかり生成されることで夜「ぐっすり眠る」事に繋がります。この体内時計を維持するために朝から昼にかけて太陽の光をしっかり浴びることが重要なのです。
▶︎朝食は和食
朝食時にしっかりと摂りたい栄養素は「トリプトファン」です。この「トリプトファン」は体内に入ると自律神経の動きを活性化させ“幸せホルモン”である「セロトニン」に変わります。そしてその「セロトニン」は、先述の通り、夜にかけて「メラトニン」に生成されるのです。「トリプトファン」を多く含んでいる例が大豆製品です。それらを多く含んでいるメニューといえば、みそ汁や納豆が浮かびます。なのでぜひセロトニンの合成に欠かせないビタミンB6を含んでいる鮭と併せて、おいしい和食を朝食べて頂ければと思います。
▶︎寝る前ぐっすりストレッチ
「ぐっすり眠る」ためには寝る前に軽めのストレッチを行うこともおすすめです。制止して筋肉を伸ばす静的ストレッチは副交感神経が優位に働きリラックス効果があります。肩甲骨回りや手首足首を伸ばすストレッチによって血行が促進し深部体温の理想的な低下が期待できます。詳しくはぐっすりストレッチ動画をご参考ください。
ぐっすりストレッチ動画はこちら>>
白濱龍太郎先生によるまとめ
睡眠は人生の1/3を占める行動であり、脳と体を休める事ですが、同時に残りの2/3の日中の行動のパフォーマンスを左右する大事な時間でもあります。
私自身も睡眠専門医として患者さんやビジネスパーソン、アスリートのみなさんの睡眠の課題に向き合い、様々な仕事を日夜問わず行ってしまいなかなか休めていない状態でした。それではみなさんとの仕事に思いきり集中できない、そう思い様々な「ぐっすり眠る」ための取組を考えました。
「ぐっすり眠る」ために日中できることは様々あります。朝食を意識することや太陽の光を意識して浴びることは、睡眠を良くすること以外にも様々なメリットがあると思います。ぜひ一度試してほしいと思います。