
朝早く目が覚めてしまう要因とは?寝たい時間までしっかり眠るためにできる事。
2023年5月12日

白濱 龍太郎 氏
日本睡眠学会専門医、医療法人RESM理事長。福井大学医学部 客員准教授。ハーバード大学公衆衛生大学院にて睡眠に関する先端の研究に従事。東京オリンピックでは選手のサポートを行うなど、ビジネスやスポーツ界からの信頼も厚い睡眠のエキスパート。
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朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)原因

「年を取ると早起きになる」という話はよく聞きます。実際に若い時より早く起きるようになったどうかを中高年に調査したところ7割以上の人が早起きになったと答えた調査もあるぐらいです。(参照:白濱龍太郎氏著書「熟睡法ベスト101」)では、なぜ加齢とともに早起きになってしまうのか?その原因をいくつか紹介していきます。
▶︎ 日中の活動量の低下
起きているときにあまり活動せず疲労が少なければ、心身の回復のために必要な時間も少なくて済むのです。特に定年退職等で仕事から遠ざかった場合、活動量が減り眠りが浅くなったり短くなったりします。
▶︎ 適量以上の飲酒
アルコール、特にビールには利尿作用があり、いつもよりいっそうトイレが近くなります。また睡眠中にアルコールが分解されることで交感神経が優位となり、眠りが浅くなります。また首回りや気道周辺の筋肉の弛緩を促し、いびきの原因となり、結果目が覚める原因にもなります。
▶︎ ストレス
ストレスは中高年だけでなくすべての年代の人に当てはまる要因と捉えてよいと思います。近年「コロナ不眠」という言葉が生まれたように、将来への不安やコロナによる生活のリズムが一変した事による大きなストレスが要因で若年層も含め早朝覚醒を含めた不眠症と考えられる症状に陥った方が増えたと言われます。ストレスは自律神経のバランスを狂わせます。自律神経のバランスが狂うことで、1日の生体リズム(サーカディアンリズムと言います)が崩れ、睡眠時に重要な副交感神経を優位にできず、睡眠が浅くなると言われています。
朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)事による影響

朝早く目が覚めてしまう事で起こる問題は以下の通りです。
▶︎ 集中力、判断力の低下
通常取るべき睡眠量がとれない事で睡眠が不足すると、脳や身体が疲れやすくなります。疲れているときに「頭がぼーっとする」という表現を使いますが、まさにそれは集中力や判断力、注意力が低下している状態です。計画を立てて実行する能力である遂行能力も低下します。集中力や判断力が低下していれば、当然仕事や勉強のパフォーマンスも低下し、場合により、大きなミスや事故につながる恐れがあります。
▶︎ 継続的な倦怠感
睡眠は身体の疲労を回復させる役割があります。入眠に課題があるということは全体的な睡眠時間が不足していることになり、疲労の回復が十分に行われず、中枢神経機能の働きが低下します。その結果、いつも疲れている感覚をひきずり、昼間に強烈な眠気を感じるケースがあります。
▶︎ 落ち着かない、イライラした感情
睡眠が不足すると、本来は睡眠中に行われる必要な脳内情報処理が適切に行われず、そのまま朝を迎えることになります。すっきりしてない脳状況のため、心も落ち着かず、イライラした状態になりやすいです。またそもそも眠れないこと自体にストレスを感じイライラすることもあります。
▶︎ うつ病になる可能性も
朝早く目覚めてしまい今までの生活リズムが崩れる事でうつ病になる可能性もあります。結果としてさらに生活リズムが狂い様々な精神的な問題が生じる可能性もあります。
朝早く起きてしまうNG行動

朝早く起きてしまう主な行動を今回は3つご紹介します。
▶︎ 寝酒をする
よく眠れない人が眠るためにアルコールを接種することがあると思います。確かに飲酒をすることで短期的に睡眠ができるかもしれませんが、アルコールによる睡眠は質も悪く長続きすることはありません。アルコール作用が抜けると覚醒してしまいます。なので良く寝るためにお酒を飲む行動はNGです。アルコールを取るなら、晩御飯時に適量を。前の日にたくさん飲酒をした日の朝になぜかいつもよりかなり早く朝起きてしまう、こんな経験をしたことがある人も多くいらっしゃるのではないでしょうか?
▶︎ 午後3時を超えた20分以上の昼寝
昼寝の時刻は午後1時前後がベストです。遅くとも午後3時までに済ませるようにしてください。これよりも遅い昼寝は夜の熟睡の妨げになってしまい本末転倒です。しかも20分以上眠ってしまうと眠りが深くなり目覚めが悪くなってしまいます。逆に言いますと、この条件を意識した昼寝は日中の集中力を向上してくれる期待が出来ますので実践できる人はぜひ行ってみてください。
▶︎ 仕事の事を考えながら眠りにつく
全ての人にとって仕事=ストレスではないと思いますが、仕事の事を考える行動自体は脳が覚醒する事に変わりはありません。特にストレスや仕事で嫌な事があったときに、その事を考えながら眠りにつく事で、睡眠が深くならず朝早く目が覚めてしまうことがあります。ベッドに入ったら仕事や嫌な事は忘れてしまう習慣を作れるといいですよね。
寝たい時間までしっかり眠る方法

▶︎ 夜は就寝2時間前までに鍋を食す
スムーズな入眠は朝までぐっすり眠るためにも重要です。その意味で「交感神経をできるだけ刺激しない」食事を夜にとることは睡眠の質全般において極めて重要だと考えます。一番避けたいのは「消化に悪い食事」です。油を多く使った料理や固いものを食べると交感神経が刺激されます。そして胃腸が消化を終えるまでに時間がかかります。その意味でお鍋は夕食に最適です。体が温まりますので深部体温を上げることも期待でき、就寝時にスムーズに眠れ、胃腸への負担も少ないため朝まで体に負担をかけることがなくぐっすり眠れます。しかも就寝の2時間前までに食事を済ますことで、食事により発生するインスリンの分泌とそれによる交感神経の刺激も就寝時に少なくなっている事が期待できます。しかもダイエットにも効果が期待できるので一石二鳥かもしれません。
▶︎ 不安や嫌な事を書き出す
先述の通り、入眠時もそうですが朝早く目が覚めてしまう一つの要因はストレスです。しっかり眠るために、そんなストレスの元になっている不安や嫌な事を淡々と書き出してみましょう。眠ろうと思ったときにストレスの元になる事を考えてしまったときは、思い切って起き上がり、考えた事をメモしてみてください。嫌な事をノートに吐き出すイメージです。これで案内気持ちが落ち着くものです。また別の方法ですが直接脳の温度を下げるという方法もあります。乾いたタオルを冷蔵庫に入れて眠るときに頭の下に敷いて眠りにつくと、考え事をせず眠りやすくなります。
▶︎ 適度に寝返りの打てるマットレスを選ぶ
寝返りがうちづらいと感じるマットレスや枕を使うと、身体の一部に負担がかかり続け、結果腰や肩等に痛みを感じて十分眠れず朝早く起きてしまうことがあります。マットレスは自然に美しく立っているときと同じような姿勢で、背骨の曲がり幅が2~3センチ程度に保てるものを選びましょう。ベッドや敷布団が柔らかすぎると腰や胸が沈みすぎて背骨のS字カーブの曲がりが幅が大きくなって、接触する部分に痛みを感じたり、血流が妨げられてしまいます。
白濱龍太郎先生によるまとめ
睡眠時間は加齢とともに変化していくものです。
平均睡眠時間を見ると、10代男性が7時間47分、30代でも6時間59分、50代になると6時間51分と変化します。(参照:NHK「日本人の睡眠時間2015」)
ただ、睡眠時間を気にする必要がない訳ではありません。睡眠時間は長すぎても、短すぎても健康を損なうという報告がされているぐらいです。日本で行われた調査で平均の睡眠時間によって10年後の死亡率の変化を追跡するものがありました。死亡率がもっとも低かったのは男女ともに睡眠時間が7時間前後のグループで、この結果はアメリカでの調査でも同様の結果がでています。つまり心身のパフォーマンスを最大限発揮できるのは7時間前後の睡眠の可能性が考えられます。もちろん因果関係は明白ではありませんが、加齢によるもの以上の睡眠時間の削減はデメリットがあると考え、早朝覚醒にならない様、自分の生活に取り入れられる事を実施していってくれると嬉しく思います。