
眠りが浅く夜中に起きてしまう人に、深い眠りをとるための方法
2023年4月17日
令和4年1月に厚生労働省が公開した「令和3年度 健康実態調査結果の報告」の中では、「夜間、睡眠途中に目が覚めて困った」と回答した人が44.6%と、おおよそ2人に1人近くいる結果でした。ほかの悩みと比較し、この悩みは第1位で、多くの人が、「眠りが浅い」という課題を持っていることが明らかです。ここでは、眠りが浅くなる原因とその影響、また眠りを深くするための具体的な方法を紹介します。
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白濱 龍太郎 氏
日本睡眠学会専門医、医療法人RESM理事長。福井大学医学部 客員准教授。ハーバード大学公衆衛生大学院にて睡眠に関する先端の研究に従事。東京オリンピックでは選手のサポートを行うなど、ビジネスやスポーツ界からの信頼も厚い睡眠のエキスパート。
- 目次
眠りが浅い(中途覚醒)原因
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「ぐっすり寝たい」という自分の意志とは裏腹に、眠りが浅く、途中で何度も目が覚めてしまとお悩みのかた。なぜ、自分の睡眠の質が悪いのか、眠りが浅くなっているのか、具体的な原因について考えたことが、ありますでしょうか。主な原因は以下になります。
▶︎ ストレス
仕事量が多い、近所づきあいが苦痛、家族に対するイライラなど。このような気になる出来事に心が占拠されると、交感神経が優位になり、睡眠に必要な副交感神経がしっかり働くことができなくなります。ストレスは気づかないうちに積もっていき、大きなストレスとなり、寝ている間もその出来事が思い出され、途中で目が覚めてしまうことになります。
▶︎ 加齢
人は歳をとると、日中のエネルギー消費量が減るようになり、それに伴い身体が求める睡眠時間も少なくなる傾向があります。加えて、加齢とともに、睡眠ホルモンのメラトニンの分泌量が減ることも影響しています。
▶︎ 寝る直前の水分の取りすぎ
トイレが近くなることで、必然的に夜中にトイレに行かなくてはなりません。せっかく気持ちよく眠っているのに、尿意に起こされてしまうことは大変もったいないことです。「寝る前にコップ一杯の水を飲むと良い」ということが、一時期メディアで紹介、推奨されていましたが、睡眠専門医によるとあまりお薦めできないとの見解があります。寝る前に水を飲むのではなく、夕食時に水分をとり、寝る前にトイレに行くのが正解です。
また、水分の中でも特に控えた方がよいものはお酒です。「寝酒」という言葉があり、お酒により、リラックスして眠りにつけるというメリットがあるとのことですが、そのメリットよりはるかにマイナス要素の方が多いです。アルコールには利尿作用があり、より一層トイレが近くなります。また、睡眠中にアルコールが分解されることによって、交感神経が優位になり、せっかく働こうとしている副交感神経の働き抑制していまい、身体も脳も休息しづらくなります。結果、しっかりした休息ができていないため、眠っている途中に目が覚めてしまうことになるのです。
▶︎ 睡眠時無呼吸症候群
眠っている間に呼吸が10秒以上止まったり、止まりかけたりする状態が、朝起きるまでに何度も繰り返される病気です。重度の症状になると、他の病気も引き起こしやすくなります。突然死というリスクも高くなります。睡眠時無呼吸症候群を発症している人は、息苦しさを感じるだけではなく、口呼吸が主体となるため、のどの渇きも感じやすくなります。つまり、息苦しさと、のどの枯渇感によって、夜中に目が覚めてしまうのです。
▶︎ 寝室環境
眠るスペースはリラックスする場です。室温が暑すぎれば汗をかき、その不快感で、身体が縮こまって力が入り、その疲労感で目が覚めてしまいます。また湿度が高すぎればその不快感で、低すぎれば喉や皮膚の乾燥により睡眠を妨げられることになります。また、室内の明かりが明るすぎると、夕方から夜にかけて眠りの準備が始まる身体に悪い影響を及ぼします。お住いの住環境によっては外部の明かりが気になるようでは、眠りが浅くなるのは必然です。加えて、外部騒音も深い眠りを妨げる要因です。
▶︎ 寝具環境
心地よい寝具に身体を預けることができていない状態では、寝ている途中にその体勢に耐えられず、無理な寝返りの回数も増え、目が覚めてしまいます。本来なら目を覚ます必要のないところで、身体の違和感で強制的に起こされてしまうのです。身体に合わないベッド、マットレス、枕、などが要因となり得るのです。
▶︎ 就寝前のブルーライト
在宅ワークの日常化で、夜遅くまでパソコンの前で仕事をしている人も多くなっています。気づいたら朝から夜遅くまでパソコン作業に没頭せざるを得ない社会人もいるのではないでしょうか。また、スマートフォンを手放せない若者も増加しています。寝る直前まで、SNSのやりとりでストレスを多少なりとも感じている上に、更にブルーライトを浴びせている状態になります。そのような状態では質の高い睡眠に不可欠なホルモンであるメラトニンが減少してしまいます。結果浅い睡眠が日常化し、つねに眠っている途中に目が覚める状態になってしまいます。
眠りが浅い(中途覚醒)による影響
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眠りに落ちてから起床の朝まで、4~5回ほど繰り返されることが理想と言われている「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」。そのサイクルの中でも、もっとも重要なのは1回目と2回目の「ノンレム睡眠」といわれています。理由は最も深いノンレム睡眠である「深睡眠」が眠ってから4時間以内に現れることが理想の睡眠となるからです。そのサイクルがない、つまり眠りが浅いと、以下のような悪影響が想定されます。
▶︎ 免疫力低下
ノンレム睡眠は心身の休息、成長ホルモン分泌による細胞の修復、免疫機能向上に深くかかわっています。どれも健康に生活する上で必要な身体メンテナンスになります。眠りが浅いということは、ノンレム睡眠が不足していることになりますので、結果、本来備わっている免疫力が低下するということになるのです。
▶︎ 記憶力、判断力、集中力などの低下
睡眠は記憶の定着タイムでもあります。日中覚えたことを睡眠中に記憶させています。その行為が適切におこなわれないということは、日常や仕事、学習のパフォーマンス低下を意味します。折角記憶してことや学んだことを確実に自分のものにすることができない状態になってしまうのです。
▶︎ アルツハイマー型認知症発症の可能性
睡眠は脳の老廃物を排出する時間でもあります。例えばアルツハイマー型認知症の発症に深くかかわっているとされるアミロイドβという特殊なたんぱく質があります。これが脳内に蓄積されると、脳の神経ネットワークが阻害され、最終的に記憶障害などを引き起こすと言われています。アミロイドβは睡眠中にリンパ系の働きによって体外に排出されることがわかっています。つまり、睡眠が不足すると、この排出が滞るというわけです。
▶︎ 肥満になりやすい
睡眠が不足すると、食欲抑制ホルモンのレプチンの分泌が低下し、食欲増進ホルモンのグレリンの分泌が増えてしまいます。さらに基礎代謝を上げる働きをする成長ホルモン分泌も抑えてしまい、このことにより、消費カロリーが低下します。基礎代謝が落ち、消費カロリーが低下することで、肥満の発症が高まることになります。また、日常の活動時間に、眠気や疲労を解消しようと高カロリー食品の摂取が増え、必要摂取カロリー以上の摂取を続けてしまうことになります。このネガティブスパイラルにより、肥満が発症する率が格段に上がってしまうのです。
眠りを浅くしてしまうNG行動

良い睡眠ために実践している行動が、実は眠りを浅くしていることがあります。ここでは特にやりがちな3つを紹介します。
▶︎ 靴下をはいて寝る
冷え症で寝つきが悪い人がやりがちな行動です。特に女性は男性より筋肉量が少なく、それに伴い、体内で作られる熱量も少なくなるため体温が低くなりがちです。冷えたままでは眠れないので、その対策として靴下をはいて寝ている人が多くいるのではないでしょうか。確かに寝つきは良くなるのですが、その代わりに体内の熱がうまく放出できなくなり、深い睡眠に達しづらくなります。スムーズな寝入りができても、眠り自体が浅くなってしまい、途中で目が覚めてしまうことになります。
▶︎ 湯たんぽを使う
こちらも靴下をはいて寝ることと同様です。外部からの温めは寝つきには一定の効果が期待できますが、深い睡眠には逆効果です。外部からの温めより身体の内部を温め、血行を良くするほうが重要です。身体がポカポカする料理を食したり、血の巡りが良くなるサプリメントを利用することも効果的です。
▶︎ Tシャツで寝る
Tシャツは動きやすく制約のない衣服として重宝します。気軽に着用できるので、部屋着として利用してる人もいると思われます。しかし、寝るための衣服には「吸湿性」、「伸縮性」、「保温性」のあるものが望ましいため、Tシャツではこの快適な状態をキープすることができません。夏場に寝汗をかいたときに、吸湿性のよい着衣でなければ、汗の不快感を感じたり、身体を冷やす原因にもなり、途中で目を覚ますことになってしまいます。
深い眠りで睡眠の質を高める方法
▶︎ 目覚まし時計は帰宅直後にセットする
寝る直前にセットをすると「朝起きるまで5時間しかない」「早く寝ないと起きられない」と気が焦り、眠ったはずなのに、脳に残ったその記憶が交感神経のスイッチを入れてしまい、時間より前に目が覚めてしまうことがあります。翌日の起床時間は事前に把握しているはずですから、「家に帰ったら」や、「夕食後」など自分でセットする時間を習慣化し、就寝前に無用な焦りを感じなくしましょう。また置き場所を工夫することもポイントです。ベッドに入ったときに目覚まし時計が視界に入ることで緊張感を呼び起こすことがあります。視界に入らない場所を定位置にしてみましょう。
▶︎ 夜21時以降のブルーライトをカット
交感神経が鎮まるはずの時間帯に強烈なブルーライトを浴び続けることは眠りをもたらす副交感神経にとつて明らかに有害です。パソコンを使用して仕事をしない。タブレットを触らない。スマートフォンを手元から離す。夜間どうしても仕事をしたいときは、プリントアウトした資料に目を通す程度に留めるなど、ブルーライトを浴びないことで、深い睡眠のための体内時計を狂わせない様、健康的な状態に保ちましょう。
▶︎ 寝るときは真っ暗がお薦め
明かりはない方が望ましいですが、防犯上光が必要な場合もありますので、その場合は小さな灯りや足元灯を利用してください。夜間の強い光は厳禁です。夕方から夜にかけて副交感神経が活発になることを支援するためにも、柔らかい暖色系の光や間接照明を使用しましょう。
▶︎ 自分にあった寝具を使う
眠りについたら、そのままぐっすり眠るためには、快適な寝心地を保つことが重要です。自分の身体に負担のない、寝返りのしやすさや通気性の良いマットレスを選ぶようにしましょう。マットレスの硬さは人それぞれの好みです。就寝時の理想は、自然に美しく立っているときと同じような姿勢です。ベッドマットや敷き布団を選ぶときは、背骨の曲がり幅が2~3センチ程度に保てるものを選びましょう。 ベッドマットや敷きふとんが柔らか過ぎると、腰や胸が沈み過ぎになり、背骨のS字カーブの曲がり幅が大きくなり眠りにくくなります。逆に硬過ぎると、接触する部分に痛みを感じたり、血流が妨げられ、入眠しにくくなります。
▶︎ ふとんの中を快適な温度にする
寝室の温度は一定に維持することが理想で、エアコンをつけっぱなしにして部屋全体の温度をコントロールできることが理想です。ただ、昨今の電気代高騰によりエアコンの利用も気になる方も多いと思います。その場合は、ふとんの中、「寝床内環境」を快適な温度にしましょう。「寝床内環境」とは、人の身体と寝具の間にできる空間の温度と湿度等の環境を示す言葉です。心地よい睡眠にとってベストな寝床内環境は温度32~34度、湿度45~55%とされており、この環境は年間を通して基本的に同じです。
例えば、冬場は湯たんぽでふとんの中を温めるのもよいでしょう。ただし寝る直前にはふとんから取り出し深部体温がスムーズに下がる様にしてください。そして、夏は暑いのでは、と思うかもしれませんが、人は裸でいても暑さ寒さを感じない温度は、約29度です。寝ているとき、人の深部体温は下がる、ためかけ布団を使って29度より少し高め寝床温度をキープすることが必要なのです。
白濱龍太郎先生によるまとめ
人間はブレーキがついていないクルマみたいなものです。
いきなり全力で走り出すことはできても、すぐに眠りに入るのは難しいですよね。
この構造を理解しないと、いつでも休めると思って無理をしすぎて眠りが浅くなってしまいます。
ぐっすり眠るために自分にとって良い行動がなにか、を理解し、習慣づけてしまうのがよいでしょう。習慣といっても難しいことはなく、簡単に実践できることも多いので、気軽に自分に合ったものを生活に取り入れてください。
睡眠をただの「日常」から自分の力を発揮するための「習慣」にして、明日をもっといい日に、そして人生を変えていきましょう。
ちなみに私が実践している習慣は以下です。よければ参考にしてくださいね。
1.10分ぐらいの寝る前ストレッチの実施
2.就寝の1時間前からスマホやPCを使用しない(メール通知等もすべてオフにする)